『生前贈与』相続税の節税対策
節税対策の一番ポピュラーなのが、「生前贈与」です。
「生前贈与」の中でも今まではほとんど使われていなかった相続時精算課税制度ですが、これからは税制改正で相続対策のスタンダードに生まれ変わります。
令和6年1月1日からの改正内容を踏まえ、制度のメリット・デメリットを理解した上でうまく活用する必要があります。
目次
相続時精算課税制度
60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合において選択できる制度で、2,500万円までは贈与税は非課税で贈与出来ます。
2,500万円を超えた部分は、一律で税率20%です。
ただし、相続時精算課税制度を使って贈与した財産は、2,500万円まで贈与税が非課税ですが、節税になるかというと、節税には全くなりません。
たしかに、贈与税は非課税になるのですが、相続時精算課税制度を使って贈与をした財産は、相続税を計算する際に、相続財産に全て足し合わせて計算をする必要があるからです。
贈与時には2,500万円までは贈与税は非課税ですが、相続時には全額相続税が課税されるという事ですので、全く節税にはならないという事です。
また、この相続時精算課税制度は、一度使ってしまうと、暦年贈与に戻る事が出来ないのも特徴です。
「改正後」相続時精算課税制度
従前は暦年贈与のような110万円の基礎控除はありませんでしたが、令和6年1月1日以後に行う贈与に関しては、110万円の基礎控除が設けられる事になりました。
基礎控除が設けられると、年間110万円に関しては、相続財産に足し合わせなくてもよくなるのです。つまり、相続税の節税が可能になったのです。
この相続時精算課税制度の基礎控除は、更に、持ち戻しをする必要がありません。
暦年贈与のように、3年以内の持ち戻しとか、7年以内の持ち戻しというように、相続財産に組み入れる必要が無いのです。
高齢になって、死期が近くなった状態だったとしても、相続時精算課税制度を使って、相続税の節税が出来るのです。
しかも、110万円以下の贈与の場合は、申告をする必要がありません。
節税以外でも使った方が良い場合とデメリット
住宅取得の場合、相続時精算課税制度の他に、住宅取得資金の贈与という特例があります。
住宅取得資金の贈与でも、大きな額を贈与出来ますが、それ以上に贈与が必要な場合で、相続時に相続税がかかったとしても、早くお金を渡してあげて、希望の予算の不動産を購入させてあげたい場合などに利用します。
収益不動産を贈与する場合、アパートやマンションなどは、建物を所有している所有者が家賃収入を受け取る事が出来ます。
生前に贈与して、子や孫が家賃収入を受け取る事が出来れば、家賃収入の分は、相続財産が増えないので、相続税がかからなくなります。
「デメリット」
デメリットの一つ目は、小規模宅地等の特例が使えなくなるという事です。
アパートやマンションなどの収益不動産を相続で受け取る場合、小規模宅地等の特例を使う事で、相続税が節税出来るというケースがあります。
相続時精算課税制度を選択すると、小規模宅地等の特例は使えませんので、この点で考えると不利になる場合もあります。
他にも、不動産を相続で所有権移転するよりも、贈与で所有権移転した方が、移転コストが高いというデメリットがあります。
具体的には、登録免許税と、不動産取得税です。
登録免許税は、所有権移転の登記をする際の登記費用です。この登録免許税が、相続登記の場合は、税率が4/1,000となります。これが、贈与になると、税率が20/1,000となります。
もう一つが、不動産取得税です。
相続で不動産を取得する際には、不動産取得税はかかりませんが、贈与の場合には、不動産取得税がかかってしまうのです。
税率は、土地が3%で、建物は通常4%、住宅用が3%となります。このように、相続だとかからない不動産取得税が、贈与だとかかってしまうのです。
「相続税がかからない場合」
相続時精算課税制度の基礎控除額を超える部分は、相続税の計算の際に持ち戻す必要がありますが、そもそも、相続税がかからないのであれば、気にする必要はありません。
つまり、暦年贈与で110万円を超えると税金がかかるけど、相続時精算課税制度を選択しておけば税金がかからないので、利用する価値があるということです。
遺産分割対策
相続時精算課税制度で贈与するという事は、一回完全に所有権を移転するという事です。
相続の際、遺言が無ければ、相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。
そこには、被相続人の意思ではなく、相続人同士で、誰が何を受け取るかという意思が存在しますので、被相続人の意思を形にする為に、相続時精算課税制度を使い、一度財産を移転してしまうという事です。
こうすることで、被相続人の意思が反映されます。
ただし、この方法は、完全に被相続人の意思を反映出来るというものではありません。
相続時精算課税制度で贈与した財産も、特別受益にあたるので注意が必要です。
特別受益は、相続人が、被相続人から遺贈を受けた場合、婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合、相続財産に、贈与の額を加えたのを相続財産とみなして計算した相続分の額から、贈与を受けた財産を引いたものが贈与を受けた人の相続分となる制度です。
子供が会社を経営していて、経済の状況などで、急に大きなお金が必要になるという場面があるかもしれません。
こういう場合は、節税効果うんぬんではなく、贈与してあげる事も、一つの選択肢だと思います。
一番節税出来る贈与額を算出する方法
生前贈与をする前の相続税と、生前贈与をした後の相続税と贈与税を計算し、それを比較すればどれだけ節税出来ているかという額も分かります。
無数に計算した中から、一番低い相続税と贈与税を探し出し、その一番低い相続税と贈与税の贈与額が、一番節税出来る贈与額となります。
ただ、この時に気を付けておきたいポイントがあります。
相続税を考える時、夫婦の場合は、お一人の相続税で考えても意味がありません。
夫婦の場合は、夫婦の相続税額の合計額で考えないと、意味がありません。
夫婦の場合は、先に亡くなる方を一次相続、後に亡くなる方を二次相続と言いますが、一次相続の時に、配偶者がどれだけ受け取るかという配分一つで、夫婦の相続額の合計額が2倍前後変わる可能性があるのです。
例えば、1億円の財産額で、子供が2人の場合は、夫婦の相続税額の合計額の最小値は、365.4万円、最大値は770万円、その差は約405万円です。
約405万円というと、最小値の365.4万円の2倍以上です。
このように、夫婦の相続では、お一人の相続で考える事は意味が無く、夫婦の相続税額の合計額で考える必要があるのです。
つまり、生前贈与をする前の一次相続の相続税、二次相続の相続税と、生前贈与をした後の一次相続の相続税、二次相続の相続税、贈与税を比べて、一番節税出来る額を探していきます。
その際には、贈与額だけでなく、二次相続が最適になる一次相続の配偶者の取得割合も算出する事になります。
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