家族信託と生命保険信託
目次
障害を持つ子供がいる方、シングルファザー・シングルマザーの方へ
障害を持つ子供がいる方、シングルファザー・シングルマザーの方、自分に万が一のことがあった時に可愛い子供の生活を守るためのお金を用意できていますか。
またお金を用意するだけでなく、一気に渡すと使い方に困ってしまうから定期的にお金を受け取れる仕組みを作りたいと思ったことありませんか。
こういう仕組みを作るのには家族信託が良いのですが、安心して任せられる親族がいない、こんな人たちに対応できるのが生命保険信託です。
信託という制度はどういう制度なのか、家族信託と生命保険信託とはどういう制度なのか分からないと、どちらを選択したらいいのかということが分かりませんので、それぞれの概要をお伝えします。
家族信託の概要
最初に、次の7つの用語を説明します。
(委託者) 家族信託の契約をすることで財産を預ける人
(受託者) 委託者から財産を預かり管理する人
(受益者) 委託者が受託者に預けた財産から、経済的な利益を受ける人
(信託財産) 委託者が受託者に預ける財産で、家族信託では現金・不動産が多い
(信託目的) 何のためにこの信託が設定されているかという目的
(受益権) 委託者が受託者に預けた信託財産が生み出す、利益を受けられる権利
(信託行為) 信託を設定する方法で契約、遺言、信託宣言の3つがあります
【例】
家族構成は父、母、長男、長女だとします。
父が、自宅と賃貸アパート、現預金を持っていたとします。
この賃貸アパートについて、父は自分が認知症になった場合に契約をしたり、修繕をするなど賃貸の経営について心配です。
できれば引き継がせようと思ってる長男に、賃貸経営を任せたいと思っています。
こういう場合に家族信託を活用します。
今回のケースに先ほどの用語を当てはめると、委託者は父、委託者である父が信託財産である賃貸アパートを受託者である長男に預けます。
受託者である長男は賃貸アパートを所有者として管理します。
この信託財産である賃貸アパートから得られる経済的な利益を、受益権を持つ受益者の父が受け取ります。
こうすることで父が認知症になったとしても、受託者である長男が賃貸アパートを運用することができます。
このように賃貸アパートを管理することを信託目的として、『契約』という形で信託行為を行います。
このような家族信託ですが、2007年の信託法改正の時に今の形で利用できるようになりました。
その前から信託は利用されていましたが家族信託ではなく、商事信託が主に使われていました。
商事信託は信託銀行や信託会社が行う信託です。
商事信託の場合財産管理のプロに管理運用を任せることができるので安心という反面、かかるコストが高いという問題がありました。
また信託財産が信託銀行の場合は、主に金銭で信託会社は金銭以外に不動産も取り扱いましたが大都市などの管理がしやすい収益不動産などの制限もありました。
気軽に利用できるという制度ではなかったのですが、家族信託ができるようになったことで管理がしやすい収益不動産という縛りなどもなく、受託者に親族がなることで信託銀行や信託会社のようなコストをかけずに利用できるようになったのです。
ただし商事信託はプロとして受託者の立場を行いますが、家族信託はあくまでもプロではない立場で受託を行います。
プロではない立場ということは、色々な人から複数回受託者を引き受けるということはできません。
あくまでもプロではない近親者等に信じて託すというのが、家族信託です。
生命保険信託
家族信託だと自由度が高く様々なことにカバーできるので家族信託だけでいいのではないかと思ってしまうことがあります。
ですが例えば次の状況はどうでしょう。
【例】
家族構成は、父はすでに亡くなっていて母、長男、次男だとします。
母は自宅と金融資産を持っています。
次男が障害を持っており、母は自分が認知症になった時の次男の生活、自分が亡くなった後の次男の生活を気にかけています。
こんな時に家族信託を使います。
委託者を母、受託者を長男、受益者を当初は母、母がなくなったら次男とし、信託財産は自宅と母が使いきらない金融資産です。
こうすると母が認知症になっても、受託者の長男が財産管理をして、母と次男の生活をカバーできるし、母が亡くなった後も受託者の長男が次男の財産管理をすることができます。
こういう家族信託の使い方は、とても意義があると思いますが、この時に障害を持っていない長男がおらず、子供は障害のある子1人だけだった場合はいかがでしょうか。
この場合は家族信託が使えません。
家族信託は信じて託す受託者が、家族にいるからこそ使える制度で、信じて託す受託者がいない場合は使えません。
このように家族信託ではカバーできないことに、カバーできるのが生命保険信託です。
生命保険信託は、生命保険会社が指定する信託のプロの会社を受託者としますので家族に受託をお願いする人がいなくても、利用できるます。
また一般の方ではなく、信託のプロなので信託契約の内容を確実に遂行してくれます。
例えば、受託者の人が使い込んでしまうとか、受託者としての仕事を滞ってしまうという心配がないのです。
このように一般の方ではなく、信託のプロが受託者になることで、絶対に遂行してくれるという安心感を得ることもできます。
但し、信託財産として利用できるのは、あくまでも死亡保険金、死亡給付金のみで、不動産や有価証券を信託することはできません。
死亡保険金であれば一括でもらって終わりなのではと思う人もいるかもしれませんが、そうではなく分割で受け取ることができます。
例えば1,000万円を一括でもらうのではなく、月々10万円を100回でもらうという設定などその人にあった受け取り方にすることができます。
また家族信託と同じように、最初の受益者はこの人で次の受益者はこの人、その次の受益者はこの人という形で、受益者連続型の形にすることも可能です。
そんな生命保険信託は、プルデンシャル生命、ジブラルタ生命、第一生命、ソニー生命などで取り扱いがあります。
生命保険信託を利用するための費用は各社違いますが、2024年現在のプルテンシャル生命の費用だと生命保険信託を始める時、つまり信託契約をする時に5,500円(税込)の契約事務手数料がかかります。
その後委託者が亡くなり、保険金から一括で支払うか、分割で支払うかでかかる費用が変わります。
一括交付を選択した場合は、信託契約一件あたり一律11万円を事務手数料として信託財産から差し引かれます。
分割交付を選択した場合は、受領保険金額の2.2%(税込)を保険金受領報酬として信託財産から差し引かれます。
また信託財産の残高があるうちは、年間2万2000円(税込)の管理報酬が別途かかります。
家族信託は、家族信託を契約する時に、専門家への報酬と公証役場の手数料で40万円から100万円くらいの場合が多いので、生命保険信託の方が割安になることが多いです。
このように信託のプロが受託者になってくれるということや家族信託より割安になるというメリットがあるのに相続対策の現場ではまだまだ浸透しておらず、あまり使われていません。
必要な人にとっては非常に重要な対策になるので、必ず相続対策の選択肢には入れましょう。
注意したいのは、利用する際にはどちらかしか使えないということではなく、どちらも使うことができます。
現預金は保険にして生命保険信託、不動産は家族信託みたいな使い方でもOKです。
実際にどの対策を実行するかは単一的に考えるのではなく複合的に考えてください。
生命保険信託がどういう人に向いてるのか
生命保険信託がとても効果を発揮するパターンを3つご紹介します。
1・障害のある子供がいる場合
家族信託を使いたくても信じて託す家族がいない時に、委託者を母、受託者を生命保険信託の信託会社、受益者を子供、信託財産は母が加入する生命保険の死亡保険金とします。
信託契約の中で死亡保険金を一括でもらうのではなく、月々いくら渡すということを指定すれば、子供に毎月一定のお金を渡すことができます。
ちなみに兄弟がいたとしても、兄弟がお金の管理をしなくても良くなるので、兄弟の負担を軽くするためにも使われることがあります。
この場合受託者は、生命保険信託の信託会社ですが、『指図権者』というものを指定することで『指図権者』が請求手続きをサポートすることもできます。
兄弟がお金を動かす手間はないけど、内容をチェックする機能は残すこともできるのです。
このようにとても使い勝手がいいのですが、注意したいのは死亡保険金しか信託できないという点です。
母が自宅を持っている場合、自宅を信託財産にすることはできないということです。
ずっとすまわせたいということであれば、子供名義にすればいいかもしれませんが、自分が亡くなった後は間取り的にも大きいし、管理が大変だと思ったら生前のうちに不動産を売却するなど、万が一の時に備えるということも必要かもしれません。
また兄弟がいれば、毎月お金を渡すという手間は生命保険信託に任せて、自宅だけ家族信託にして、必要があれば売却し、住み続けたあと障害のある子がなくなったら兄弟が受け取る仕組みを作るということもできます。
このように生命保険信託だけではカバーできない部分もありますが、生命保険信託だからこそできる部分もあるので他の対策と併用しながらうまく活用したいものです。
2・シングルファザー・シングルマザーの場合
例えば家族構成は、父38歳と子供13歳だとします。
父は自分に万が一のことがあった場合に備えて、生命保険に入っています。
しかし子供はまだ13歳なので、一度に大きなお金を受け取っても、使い方が心配です。
将来のことを考え、月々いくら使うというようなことができるか、もしできなかったらせっかくお金を残しても足りなくなってしまうか、といって安心して任せられる人もいない。
こんな時に使えるのが生命保険信託です。
委託者を父、受託者を生命保険信託の信託会社、受益者は子供、信託財産は父が加入する生命保険の死亡保険金とします。
この死亡保険金を1度に受け取るのではなく、月々いくらという形で渡す設定をします。
そうすればお金を管理するプロに任せることができ、子供が使いすぎる心配もないです。
このように生命保険信託を使うことで、シングルマザーシングルファザーに万が一のことが起こっても大丈夫な体制を作ることができます。
3・受益者連続型の場合
「例」
夫、妻の夫婦で子供がいないとします。
夫は自分に万が一のことがあったら、妻に財産は渡したいと思っています。
しかしその後妻に万が一のことがあったら、妻の父母や兄弟に財産は相続されます。
できれば自分で稼いだお金は、妻の家計ではなくお世話になった自分の両親や兄弟に相続させたいこう思う人も結構多いです。
この要望は遺言で叶えることができません。
遺言は自分が亡くなった時に、誰に財産を渡すかという指定はできますが、その先は指定できないからです。
こういう時に生命保険信託を利用します。
委託者を夫、受託者を生命保険信託の信託会社、受益者を妻、信託財産は夫が加入する生命保険の死亡保険金とします。
生命保険信託だと、妻がなくなる時に信託財産を使いきらなかったら残った財産を夫の父母や兄弟に渡すという指定ができるのです。
こうすることで夫の希望を叶えることができます。
これが「受益者連続型」と言われる信託の方です。
ちなみにこれは家族信託でも行うことができます。
家族信託でもできるとしたら、なぜ生命保険信託でやるのかというと、コストが安いから選ぶ場合、信じて託す受託者がいない場合に生命保険信託を利用します。
逆に家族信託を利用する場合としては、生命保険信託は死亡保険金しか信託財産にすることができないので、死亡保険金以外は家族信託にするとか面倒くさいので全部家族信託にしてしまうということもあり得るでしょう。
ただ、契約内容を確実に実行してくれるプロが運用してくれる、商事信託を安く使えるというメリットはとても大きいです。
ここまで3つのケースを確認してきましたが、生命保険信託だからできることや生命保険信託ならではのメリットを生かしたものでした。
ただ事例を紹介する中でもお伝えしましたが、全てを生命保険信託にすればいいというものではなく、あくまでも様々な相続対策と併用して対策を行います。
特に家族信託は、比較し併用を検討するなどはとても多いのでしっかりと検討してください。
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